アムールの船旅
�．魯丱蹈侫好�からコムソモリスク・ナ・アムーレまで
　アムール川（黒竜江）は中国東北地方とロシア・シベリアの国境を流れる大河で、その全長は4，350km。上流ではシルカ川とアルグン川に分かれ、中流域では北方からゼア川、ハバロフスク付近で南方からウスリー川が注ぎ込み、進路を北東に変えながら間宮海峡（タタール海峡）に注いでいる。
　古来、アムール流域には多くの諸民族が住み、アムール川はこれらの人々にとって漁労ばかりでなく、流域経済の大きな動脈として重要な役割を果たしてきた。
　2000年の夏、ハバロフスクから間宮海峡に至るアムール流域の歴史・民族学調査の旅に同行する機会を得た。僕以外の参加者は、この流域の歴史に精通した研究者であり、全員大学教授であった。専門家とはおのずと視点は違ってくるのであるが、ここでは一般旅行者の目で撮った写真などを紹介したい。
　今からおよそ2世紀前の1809年、30歳の間宮林蔵はこのアムール川を遡り、デレンに至ったという記録がある。流域で目にする自然、人々、その生活などに興味があったが、間宮林蔵の足跡を逆にたどる事にもなるこの船旅にロマンを感じた。
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我々が傭船した船は科学アカデミー所属の「ラドガ号」で、船内は隔壁で仕切られた３カ所の部屋からなり、前部室には船長、機関長、コピチコご夫妻のロシア人チームが入り、中間部分の部屋に日本人６名、後部室は燃料、我々のスーツケース、水などを保管する倉庫として利用した。船着き場が無くとも、どこでも気の向いたところに接岸し、下船できた。
船長は酒、タバコをたしなむことは一切せず、非常にきれい好きな方だった。我が隊員が中州などに上陸後、乗船する際には必ず甲板を水洗いし、靴からの汚れはこまめに洗浄していた。科学アカデミーで毎年学者を相手に仕事をしてきたためか、本人もインテリ風で、自分が描いたという油絵の写真はプロ級の出来映えだった。機関長は海軍上がりで、よく気の付く、信用のおけるオッさん風で、年を聞いたら私より５歳も年下であり、苦労を重ねた人のようだった。最終日のレストランでの打ち上げ会の時も船からの盗難を恐れて一人だけ船内に残って番をしていた。
アムール紀行に同行してくれた考古学者のコピチコ先生ご夫妻。今回はあらゆる面でご協力をいただいた。また、船旅では彼の奥さんであるスベトラーナさんが毎日３度の食事の世話をしてくれた。エンジンの騒音と暑さの狭い船内の炊事場で我がチームのために毎日工夫した料理を作っていただいた。
コピチコ先生の『アムール流域の考古学』をご一読下さい。
ハバロフスクを出航して間もなく大きな鉄橋をくぐり抜けた。アムール川に架かるシベリア鉄道の鉄橋である。
この橋は二段になっており、下は鉄道、上は自動車道路となっている。この鉄橋は新しく建てかえられたもので、そばに記念碑としてか、昔の鉄橋の一部が残っていた。
船が鉄橋の下を通り抜ける時、丁度貨物列車が鉄橋を通過した。（右の写真）


不思議な岩絵		 シカチ・アリャンという人口４００人ほどのナナイ人の村に大昔の岩絵の遺跡があった。人の顔のような、不思議な模様だった。3千年以上も前に、誰が何の目的で石に模様を刻んだのか。水没しているものも含めれば200個ぐらいの岩絵があるそうだ。
傍に記念碑があり、『紀元前12世紀の古代アムール民族の岩絵。考古学的記念碑は国家により保護されている。損傷する事や破壊する事は法で罰せられる。』と書かれていた。（右の写真）

シカチ・アリャンの村長		 この村では漁業がすたれ、さしたる産業もなく、経済状況は大変なようだった。村長さんの案内で子供達の踊りを見学。その後に民芸品売り場に案内され、土産のショッピングを進められた。この辺りにはさしたる産業も無いようだし、とりあえず観光に力を入れたいようだった。
この辺はハバロフスクから車で日帰り出来る距離にあり、日本人観光客もよく来訪するようだ。
夕方は岸辺に船を着け、船内で宿泊した。途中のコムソモリスクやニコラエスクなどの大きな町ではホテルに宿泊した。
ハバロフスクを出航して二日目はボロニ手前の岬に上陸。細谷先生がベルホグリャード、クラスナピョルカなどを釣り上げた。船長、機関長などは河の中で体を洗っていた。私も石鹸とシャンプーを持ってアムール川に飛び込んだ。少し冷たかったが気持ちよかった。
アムールの下流域は川幅が広くなり、海のようにも見える。
その広いアムールに夕日が静かに沈んでいく。
おそらくここでは何百年も、何千年も変わらぬ風景なのだろう。
食事はいつも船尾のテーブルでとった。


トロイツコエの町役場		 トロイツコエに上陸。
コピチコ先生の教え子のナナイ人歴史学者であるマクシム氏がアテンドをしてくれた。
トロイツコエはナナイ地区の行政の中心地であるが、村の総人口６０００人のうち、ナナイ人は１５００人程度であり、ロシア人の数が多い。教育は全てロシア語で行われており、ナナイ語を話す人は非常に少ないとの事。
右の写真はトロイツコエのナナイ博物館。木造二階建ての博物館。
地元のナナイ博物館を見学。ここにもシャーマンの衣装があった。（左の写真）
ソ連が崩壊し、ロシア周辺に独立国が誕生していく現象は、少数民族のナナイにも少なからぬ民族主義的影響を及ぼしているようだった。しかしながら、ロシアへの吸収同化の時代が長かったのか、民族的自立が不可能だったのか、ナナイ人でありながらパスポートにはロシア人と記載されるのを望む人も多いようだ。世界史には多くの民族が生まれ、消えていった。ナナイはどうなるのであろうか。
右の写真はナナイ博物館に展示されていたナナイの伝統衣装。ナナイの伝統衣装には水の世界の象徴であるトカゲや蛇、森の世界を司る虎をモチーフにしたものが多いようだった。
アムールスクへ上陸。
町の入り口にアムールスクに入った最初の建設隊を記念する石碑があった（左の写真）。石碑には1958年春と彫られていた。比較的若い町である。ソ連時代はこの町も軍需産業が中心になっていた。
住民に聞いたところ、ソ連崩壊以降、大きな工 場の生産が止まり、失業者が増えているとの事。
冷戦時代があった事は事実であり、今後も歴史の教科書には記載されていくのであろうが、その冷戦の波の影響を受けたアムール川沿いの小さな町の状況などはどのように後世に伝えられるのだろうか。
ここの郷土史博物館に右の写真のような中国東北との関連を示す展示品が何点かあった。

博物館には古い陶器や箸も飾られており、左の陶器は19世紀に伝えられたものとの事。
右の写真は東洋人の女性が並んだ絵で、同行した先生方の話では満州族の女性であり、こういうものを「ミョウ」と称するようだった。
コムソモリスク・ナ・アムーレ（Комсомольск-на-Амуре）に上陸。この町はハバロフスク地方では州都ハバロフスクに次ぐ第二の都市であり、スホイで有名な戦闘機工場、潜水艦工場など、軍需工場が多い。冷戦終了直後、もう十年以上前になるが軍民転換政策が叫ばれ、日本の企業人とハバロフスクから軍用ヘリで訪問した事があった。今回はそれ以来の訪問となったが、船着き場は意外と小さなものだった。小さいというか、僕らの船は船着き場も何も無いような、ただの岸辺に着岸した。そこでは地元の子供達が水遊びをしていた。（右の写真）
コムソモリスク・ナ・アムーレで宿泊したホテルは『ヴォスホート(Восход)』。（左の写真）ヴォスホートとは日の出、月の出など（天体が）出るというような意味であり、ソ連の宇宙船シリーズの名称にも使われていた。フロントも、室内も、ソ連時代の面影を強く感じさせた。アムール流域ではコピチコ先生の同窓生、教え子がいろいろな場面で登場し、案内してくれた。ここでもイリーナさんという人がいろいろアテンドしてくれた。（右の写真）
川辺の戦勝記念碑のそばにいた少女たち。（左の写真）
コムソモリスク・ナ・アムーレの児童合唱団『アムールの虹』は有名である。今でも市民の誇り、心の支えになっているようだ。

市内にはフルシチョフ時代に大量に建設された通称『フルシチョフカ』と称されるアパート群の一画があった。経済の低迷で、そのような古いアパートの手直しもままならないようだった。

　　郷土史博物館
郷土史博物館に飾ってあったシャーマンの絵が印象的であった。（左の写真）
左の写真はロシア人がコムソモリスクの開発を始めた頃のナナイ人女性たちの写真
久しぶりのシャワーを楽しみにしていたが、湯が出ず、市内のサウナへ行った。（右の写真）