6.タジキスタンの自然

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ドゥシャンベ市内からパミール方面の遠望(2010年3月2日)

タジキスタンの気候

タジキスタンは山岳国家であり、緯度的には比較的南部に位置するものの、場所によって様々な気候になります。

冬季のタジキスタンは北方からのシベリア寒気団と、西方からの比較的暖かで湿り気のある海洋性気団の影響を受けます。冬と春には、これら気団の境目に、しばしば極前線が発生し、それに沿って低気圧が移動します。低気圧の通過に伴い、降雪、又は降雨となります。

夏には強い日差しとなり、西アジアや中央アジアの砂漠上空で形成される乾燥した熱帯性気団におおわれ、平野部の気温が上昇します。

高い山々は冬にシベリアから来訪する寒気団を防ぐので、高山の手前側では気温はそれほど下がりません。タジキスタンの気候の特徴としては、一日の気温の変化、季節間の気温の変化が大きい事と(大陸性気候)、空気が乾燥していることです。夏と冬の平均気温の差は28~30度にもなります。

高山は寒気団に対する盾となり、そして暖気を様々に分配します。フェルガナ盆地からギッサロ・アライ山系へ登ると、夏、冬とも気温は下がりますが、ギッサロ盆地へ下ると、そこからヴァフシ盆地にかけては気温が上昇します。パミールでは、西から東へ移動するほど海洋から遠くなり、大陸性気候が顕著となり、月間平均気温は低下します。

タジキスタンは温帯性地域と同緯度ですが、気候は大きく違っています。国内の南西域では冬でも雪はほとんど降りません。そこでは年間を通じた月間平均気温は常にプラスです。南部地域では、年間の三分の二以上が+10~+30度であり、暖いか暑い気候となります。残りの12月から2月は、寒い日が続き、気温は+1~+5,6度程度です。一方で、3000~4000m級の山岳地帯では、+10~+15度以上になるのは、年間で2~3ヶ月間だけです。そこでは冷気、強風、霧雨、又は降雪の場合が多いです。タジキスタンの盆地では春と秋は短期間です。低山地帯では、早春によく雨が降り、時々雪になります。秋は乾燥し、暖かく、最も良い季節となります。気温と降水量によって、寒く高湿度の時期(11月から4月)と、暖かで乾燥した時期(5月から10月)に分かれます。夏季(6~8月)は、北部と南西部の平野では20~30度の範囲で気温が変化し、午後には+35~+40度まで上昇します。地面の温度は+60~+70度にも達します。このような暑い気候は、ある種の熱帯性穀物には好条件となります。

タジキスタンの気候では、細い繊維と繊維が中程度の綿花の栽培が可能です。果樹栽培では、気温が氷点下に達しない期間の長さが重要です。その期間は、国内北部では195 — 216日間継続し、最大で282日間であり、南部では210 — 242日間継続し、最大で291日間です。果実の収穫に大きな影響を及ぼすのは春の降霜で、それはシベリア寒気団の南下が原因で、果樹の開花時期に重なる場合があります。気候の特徴の一つは、降水量が季節によって大きく違っている事です。降水量が多いのは寒い季節で、暖かい季節にはほとんど降らないか、全く降りません。従って平野部での農業には灌漑が欠かせません。

西風によってもたらされる降雨(降雪)の大部分は、ギッサル山脈、ピョートル一世山脈、科学アカデミー山脈に残ります。この湿度の高い地域には、ヴァルゾプ、カフィルニガン、オビヒンゴウ等の河川の水源湖や、フェドチェンコ氷河があります。この地域の年間降水量は900~1200mm以上で、この地域を越えた南方と北方での年間降水量は400~500mm程度です。綿花栽培地帯の年間降水量はとても少なく、150~300mm程度です。そこでは6月から10月まで雨はほとんど降らず、山岳地帯で発生する雲からの雨滴が、地面に届く前に蒸発してしまうほど大気は加熱されています。フェルガナ盆地でも降水量は少なく、100mm程度だけです。タジキスタンで最も降水量の少ない地域は東パミールで、そこでは雨や雪がほとんど降りません。

大気の乾燥は、夏季の(時々冬季も)砂嵐を助長させます。フェルガナではカラクム砂漠から飛来する砂塵を含んだ熱風を「ガルムシーリ」と言っています。南部では通称「アフガン人」という風が吹きます。これらの風には乾燥した黄砂が含まれ、時々山岳地帯へ流れていきます。熱風は農産物に好ましくはありませんが、普通は深刻な被害を及ぼす事はありません。

タジキスタンの気候には、海抜や地形によって幾つかのタイプがあります。海抜350~500mに位置する平野では、とても暑い夏と、おだやかな冬の気候が支配的です。そこでは、長い(200日間以上)夏と、少ない降水量(150 — 200mm)が特徴です。暑い夏と寒い冬が典型的なのは、クヒスタン山麓、南西部の低山地帯、海抜の高い盆地などです。これらの地域の降水量は350 — 700mm程度です。タジキスタン中央部、西パミールなどの海抜1500 — 3000mの山岳地帯では、安定した気候が特徴になっています。そこでは夏は涼しく、冬は寒く、秋、冬、春の降水量は多いです。海抜3000m以上の高山帯では寒い気候が支配的で、夏季は短く、長く、厳しい冬となります。東パミールは高山・砂漠型気候になっています。降水量は暖かい時期に60 — 100mm程度あるだけです。夏は乾燥し、そして短く、冬は積雪が少なく、長い厳寒の季節になります。場所によっては、泥炭層の下の深さ1.5m程度から永久凍土になっています。



ドゥシャンベからダンガラ方面へ向かう街道にある峠の様子(2009年7月26日)


ドゥシャンベ南西部(2009年9月21日)

山岳国家

タジキスタンは国土の約93%がパミール、テンシャン、ギッサル・アライなどの山脈系に入る山岳地帯です。タジキスタン中央部には、トゥルキスタン、ゼラフシャン、ギッサルなどの山脈が標高4000~5000mの高さで展開しています。タジキスタンの東側半分には、タジキスタンの最高峰であるイスマイル・サマニ峰(7494m)やレーニン峰(7134m)がそびえています。

イスマイル・サマニ峰は、1928年の独ソ合同調査隊によって発見されましたが、当初は間違ってガルモ峰と見なされていました。1932年になって、ガルモ峰は20km離れた場所にあることがわかり、間違いが訂正され、この山はスターリン峰と命名されました。1962年に、スターリン峰は共産主義峰に改名されました。そして1998年、共産主義峰は、イスマイル・サマニ峰に再改名されたわけです。初登頂は1933年のソ連科学アカデミーのタジク・パミール調査隊の隊員であったエヴゲーニー・アバラコフによって成し遂げられました。

タジキスタンには千カ所以上の氷河があり、それらの中で最も大きいのはフェドチェンコ氷河で、長さ70kmです。

ドゥシャンベ郊外(2010年3月3日)

タジキスタンへ最初に来た時は夏でした。日本で山というと、木々があって、夏はうっそうとした緑が広がっているイメージですが、タジキスタンの山々では、木々はほとんど見あたらず、草丈の低い干し草のようになった植物が赤茶けた山肌にへばり付いていました。気温は40度を超える日が多く、緑の無い砂漠のような山岳地帯では、車の後ろにもうもうと砂煙が上がり、行き来するだけで疲れてしまいそうな風景でした。

翌年は春先に訪問する機会がありました。夏には干し草のように見えていた植物が、春には緑になって、山肌をおおっていました。でも草丈は、夏と同様に短く、その僅かに伸びた草原に牛や羊が放牧されていました。

タジキスタンの風景の中で強く感じるのは、乾燥した気候です。

ヴァフシ川(2009年7月26日)
河川

タジキスタン国内にはパミールやギッサル・アライ山脈に源を発する長さ10km以上の河川が947あり、水量豊かなピャンジ川やヴァフシ川も含め、その多くがアムダリア水系となりますが、幾つかの河川はゼラフシャン川とシルダリアへ流れ込みます。タジキスタンはピャンジ川やヴァフシ川など、水量豊かな急流が多いので、旧ソ連圏諸国の中で、水力発電用の水資源は、ロシアに次いで二番目の大きさとなっています。

背後に広大なパミール高原を抱えるタジキスタンは、乾燥し、降雨量が少ないとはいえ、ほとんどの河川の水量は豊かです。近年、この水資源が近隣諸国の紛争要因になり得るという話を聞きました。中央アジアと言えば、タジクの他に、ウズベク、カザフ、キルギス、トルクメンがありますが、これらの中で最も国土が小さいタジクとキルギスの二カ国で、中央アジア全体の水資源の8割を握っています。中央アジアは綿花など農業が主産業ですが、乾燥地域だけに灌漑は欠かせません。そして、山岳国家のタジクやキルギスには農耕地は少なく、大多数の農耕地は、タジクやキルギスから流れ出るアムダリアやシルダリアの下流域に展開するウズベク、トルクメンの領土内にあります。そして、その先には年々水位が下がり、湖面が小さくなっていくアラル海があります。アフガンの紛争が一段落すれば、アムダリアはアフガンの国境の川でもあり、アフガン側からの取水量も大幅に増える可能性が大きいです。中央アジア全体が乾燥した地域であり、限定された水資源は、その賢明な配分方法を誤ると、地域間紛争の原因になる可能性を十分に秘めています。