第13回UEFA欧州選手権

 サッカーの第13回UEFA欧州選手権は2008年6月に行われたが、この大会はワールドカップ同様に4年に一度のイベントであり、UEFAに加盟の50の国と地域から予選を勝ち上がってきた14チームと開催国2チームの合計16チームで選手権が争われた。この大会でロシアは予想外の大活躍をした。

 グループDでの初戦ではスペインと対戦し、4対1で大敗し、翌日の話題は、「いかにロシアのチームに力が無かったか、マスコミは優勝候補の一角などと書きたてたのに、なんと恥ずかしいことだ。」と愚痴とも不満とも言えるような話ばかりだった。これでは決勝トーナメント進出は無理だろうというのが大方の予想だった。

 ところが前大会の優勝国であり、予選を1位で勝ち上がっていたギリシャに勝ち、スペインに食い下がったスエーデンにも勝って、決勝トーナメントに進出した。決勝トーナメント(準々決勝)第一戦の相手がオランダと決まった時、誰もがもうこれでもう終わりと思ったようだ。この大会でオランダは「史上希に見る死のグループ(激戦区)」に入り、そのグループにいた優勝候補のイタリア、フランスを大差で粉砕し、一気に優勝候補筆頭に躍り出ていたからである。

 しかし、ふたを開けてみると、ロシアが3対1でオランダに勝ち、試合内容も圧勝だった。ロシアでは男のポピュラーでメジャーなスポーツと言えば冬はアイスホッケー、そして夏場はサッカーである。スポーツ大国ロシアがこれまでサッカーのワールドカップやヨーロッパ選手権で優勝が無いというのも珍しい気もするが、ソ連崩壊後の経済の混乱などで一般大衆の生活は明るくならず、国内の伝統的メジャースポーツであるサッカーやアイスホッケーでは国際大会での優勝から長らく遠ざかっていた。物心両面でだいぶ鬱積したものもあったのだろう。

 ところでロシアはこのサッカー欧州選手権の数ヶ月前に行われたアイスホッケーでは敵地のカナダでカナダチームを破り、ソ連時代に優勝した時から20年近いブランクを経て優勝トロフィーを手にしている。この時は優勝チームはクレムリンへ呼ばれ、大統領になったばかりのメドべージェフから直々に祝福され、国民も長年の溜飲を下げたようだ。

 一般的なロシアの人々の愛国心は強いと思うが、その愛国心とメジャースポーツでの勝利が重ならないジレンマが長らく続いたためだろうか、この優勝候補のオランダを圧倒したロシアチームに人々は拍手喝采をし、翌朝の挨拶は、「おはよう」の代わりに「おめでとう」だった。オランダに勝ったとは言え、まだベスト4に勝ち残っただけなのに市内には優勝したような興奮が満ちており、女性や子供は小旗を振りながら、「ロシア、ロシア」と叫び、若者は車のクラクションを鳴らし、大人の男性は静かに感動し、喜んでいたような雰囲気の一日だった。上の写真と下の写真はその時のユージュノサハリンスク市内で撮った写真である。

 ちなみにロシアは準決勝で再びスペインと対戦した。丁度この時にモスクワを訪問中のスペインのフアン・カルロス国王はメドべージェフ大統領に「今度はロシアが勝つでしょう。」と外交辞令を言っていたが、ロシアは又もやスペインに0対3で大敗した。スペインは次の決勝でもドイツを負かし、ヨーロッパチャンピオンとなった。

2008年6月
Samovar・記